Keso de Bola とは、 「表面は赤いのに中は黄色い」フィリピンのボール型チーズ。転じて日和見主義者。       かつてお世話になった、現地の言葉で「灯台」と呼ばれるマニラ湾岸のスラムを、ガラス越しに。
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25年後の『シスター・ステラ・L』
 現在はバタンガス州知事を務めるフィリピン映画界の女王様ビルマ・サントス主演のあの伝説の映画、『シスター・ステラ・L』の制作25周年記念上映会が、このたび、フィリピン大学のFilm Centerで開催されました。(『シスター・ステラ・L』をご存じない方は、いますぐ、清水展先生の名著『文化のなかの政治』を買ってお読みください。)
 …かく言う私も『シスター・ステラ・L』を観たことがないモグリだったので、この機会に観ておかなくては…と、会場に向かいました。会場の周辺は、VSSIと書かれた赤いTシャツを着た人たちでいっぱい。政治団体かと思いましたが、たまたまその場で出会った映画好きの知り合いによると、70年代にノラ・オノールとビルマ・サントスがトップ女優争いをしていた頃に結成されたVirma Santos Solid Internationalという、熱血的な「アテ・ビルマのファンクラブ」なのだそうです。
 上映予定時間になっても、赤シャツの方々は一向に会場に入ろうとせず、外にたむろしています。映画が始まりましたが、それは『シスター・ステラ・L』ではなく、マイク・デ・レオン監督が撮影したという『戒厳令下における報道の自由の弾圧』に関する証言ビデオでした。あの時代を生きた人たちのインタビューと民主化運動の映像がコラージュされた、よくあるタイプの古いビデオです。
 おかしいと思って係員にきいてみると、
 「映画上映前に、ビルマ・サントスとその他のスタッフ・キャストが集まって当時を回顧するサプライズ・イベントが予定されているのですが、まだ誰も到着しないので、時間潰しにこのビデオを流しています。」
とのこと。えーーっ! だったらさっさと映画を放映するなり、アナウンスを流すなりしてほしいものですが、さすがはフィリピン。というか、さすがはUP Film Centerです。間もなくビデオも終わり、今度は、『シスター・ステラ・L』の中で使われている歌がエンドレスで流れ始めました。まったくもう!

 予定時間から1時間半が経過したところでやっと、
 「あと10分でビルマ・サントス知事が到着します!」
とのアナウンス。赤シャツ組、熱狂!! そして、女王入場!! フォーラムが始まりました。デ・レオン監督は不在でしたが、脚本・演出スタッフが来られていて、アテ・ビルマと共に、25年前の制作時の思い出話を語りました。
 観客からの質疑応答の時間も設けられていました。映画関係者、現役シスター、現役の労働運動家、単なるアテ・ビルマのファンなど、さまざまな人たちが発言していて、実におもしろかったです。『シスター・ステラ・L』は、リノ・ブロッカ監督の『オラ・プロ・ノビス』との比較で語られることが多いのでしょうか。皆さんのお話をきいていて、そう感じました。どちらも社会派ですが、時代が違うし、『オラ・プロ・ノビス(Fight for Us)』は難解かつ絶望的にすぎると思うのですが!
 Kilusang Mayo Unoの活動家を名乗る女性が、ものすごい「活動家節」で
 「労働者の状況は、25年前より悪くなっている!」
という訴えを延々と続けたあと、アテ・ビルマが、
 「そのとおり! この映画は25年前のものですが、現代も状況はあまり変わっていません!」
と答え、彼女に負けない「政治家節」で、バタンガス州知事としての政策を滔々と述べ、最後に、あの名ゼリフ、
 “Kung hindi tayo kikilos, sino ang kikilos? Kung hindi ngayon, kailan pa?” (私たちが行動しなければ、だれが行動するのか? いまやらなければ、いつやるのか?)
で締めたので、皆、大ウケでした。
 
 その後、Rudy Veraが、映画のワンシーンで使われている労働者ソング(”Panahon na, panahon na, mga kasama!” という、あの超有名な歌です)を熱唱し、フィリピンらしく写真撮影が行われ、アテ・ビルマは赤シャツ組に囲まれながら退席し、やっと、映画上映。

 その後で観た『シスター・ステラ・L』は、本当に、25年前のものとは思えないくらいvividでした。…たぶん、この国の状況があまり変わっていないから。
 ストライキのプラカードを渡されて戸惑う、シスター・ステラのウブっぷりが良かったです。映画の終盤で、亡くなった活動家の妻からストの現場でマイクを渡され、
  “Mabuhay welga! Mabuhay mangagawa!”
と演説するも違和感たっぷりだし、最後に「あの名ゼリフ」を口にするときでさえ、学校の先生のように真面目だし。

 …あの純朴なシスターが、政治家になってしまうなんて! あのセリフが、運動家ではなくて政治家の口から語られるなんて!
 決して、残念だとは思いません。なんだか感無量でした。25年間なにも変わっていないように見えるけれど、ちゃんと変わっているんだなと思って。アテ・ビルマが政治家になったこと、赤シャツ組が単にファンクラブとしてではなく政治団体として動いているらしいこと(彼らの言動の端々からそれが伺えました)。その上できく、「宗教と政治」についての作品内での問答、「他人にあなたの話をきかせるのではなく、あなたが聞き役であるべきだろう」というシスター・ステラへの言葉は、とても意味深で、確実に、時代を超えている感じがしました。
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by saging | 2009-03-22 15:53 | フィリピン(全般)